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ゼロのルイズが魔法を失敗し、爆発を起こす。当たり前の光景であり、そこには毛の先ほどの意外性もない。 はずだった。 『春の使い魔召喚の儀式』でサモン・サーヴァントを唱え、使い魔を呼び出す。 メイジであれば誰もが通る道だが、例外がないわけではない。例えばここにいるルイズ。 魔法を行使しようとしてもその成功率ゼロパーセント、ゆえにゼロのルイズ。 フライ、ロック、レビテーション、コモンやルーンの違いに関わらず、全ての呪文が爆発に通じる。 心無いクラスメイト達の期待にたがわず、大事な儀式でも爆発を起こす。 向かう先は留年、退学、兎にも角にも不名誉な道だが、嘲笑う人間にとってはどうでもいいことだ。 ただここに笑うネタがある。それで十分、十二分。 「おいおい、使い魔くらいまともに召喚してくれよ!」 「さすがはゼロのルイズだな」 「あなたには使い魔無しがお似合いよ!」 ここでルイズからの苦しい反論があり、それをネタにもう一笑い、という流れに沿うはずだった。 だが、当のルイズが動かない。爆発により巻き起こった土ぼこりを呆然と見つめていた。 自然、からかうことに腐心していたクラスメイトもそちらを見る。 笑いもからかいも無く黙って眺めていた級友達、慰める準備をしていたコルベールもそちらを見た。 土ぼこりの向こうに茫としたシルエットが見える。 はっきりとはしないが、二本の足で立っているようだ。 「亜人……?」 「まさか人間……?」 一人ならぬ人間が息を呑んだ。一陣の旋風が土ぼこりを払う。 皆のマントがバタバタとあおられ、女生徒のスカートがはためくも、目を逸らす者は一人としていない。 ルイズの爆発によって起こされた土ぼこりが吹き飛ばされた先には――何もいなかった。 一転、爆笑。 「やっぱりゼロはゼロだな!」 「まったく驚かせないでよね。紛らわしい」 ルイズの双眸は驚愕に見開かれていた。普段は澄んだ桃色を湛えているその瞳は、掴みかけた成功を奪い取られた絶望の黒に塗り固められていた。 「違うのよ! たしかに召喚した! 手ごたえがあったのよ!」 転々、爆笑。 「だっていたじゃない! みんな見たでしょ! そこに人影が!」 「光の加減でおかしなものが見えたんだろ」 「見間違いにすがるのはやめとけよ」 「いや、たしかに召喚は成功していたようだ」 土ぼこりの跡を調べていたコルベールの一言に、場の空気が再度固まった。 「見たまえ、かすかではあるが足跡が残っている。これはミス・ヴァリエールが起こした爆発の後にできたものだ」 「それじゃミスタ・コルベール……わたしはサモンに成功していたんですか!?」 「そういうことになる」 絶望は喜びへと転化しようとしたが、ルイズの理性が急転直下を押しとどめた。絶望は喜びではなく疑念に変わった。 召喚に成功したというのなら、なぜ使い魔がいない? まわりの生徒達もざわめいている。 使い魔に逃げられたとなれば格好の笑いの種だが、問題はその逃げ方だ。 衆人環視の中、忽然と消え失せた。そんなことが可能で、あのシルエットの持ち主となると―― 「音も無く消えるっておい……」 「エルフ……?」 「いや吸血鬼ってことも……」 「本当かよ……あのルイズが……」 思い当たる存在を次々あげていくだけで、ささやかならぬ恐怖が蓄積されていく。 不安げに囁きあう生徒達の心配が杞憂に終わらないであろうことを次なる発言者が念押しした。 「逃げていない」 「……そうか。君は風のトライアングルだったね、ミス・タバサ」 眼鏡をかけた少女がドラゴンの頭を撫でていた。 次々変わる状況におびえているのか、使い魔のドラゴンが少女について離れない。 「風が動いていない」 タバサの耳元でドラゴンが口を動かしているその様は、タバサという通訳を介してドラゴンの考えを語っているかのような滑稽さがあったが、それを笑う余裕がある者はこの場にいない。 「召喚された者が未だここに留まっているというのかね?」 「そう」 動揺は揺れ返し、恐慌になろうとしていた。 「なんだよ! どういうことだよ!」 「ど、どこに隠れてるんだ!?」 「落ち着きたまえ! 皆、見ない顔はいないか周囲を確認しなさい」 キュルケは杖を構えルイズの傍らへと移動した。さりげなくマリコルヌがついていく。強い者の周りが安全――風上との判断か。 ギーシュは右手にモンモランシーを、左手にケティを抱え、落ち着かない様子で周囲を見回す。 コルベールは油断無く生徒の顔を確認した。次いで召喚されたばかりの使い魔達を見る。 ――おかしい。 見知った顔しかない。教師の務めとして、召喚されたばかりの使い魔もきちんと把握している。 この場にいないはずの存在、いてはならない存在がない。 「ちょっとルイズ! あなたが召喚した使い魔でしょ、責任とりなさい!」 小声だが強い調子で話しかけた。キュルケの声が聞こえないはずはないのだが、ルイズは動かない。 「ルイズ?」 キュルケの語調が弱くなり、語尾に疑問符がついた。 いつでも魔法を使えるよう、杖を構えたままでルイズの顔を覗き見る。 そこにあったものは……。 「ル、ルイズ……!?」 高いプライドを持ち負けず嫌い、そのせいでコンプレックスに潰されかかっている。 何かとつっかかってくるが、その方向性はいまいちずれている。 空気は読めないが、他人のことを思いやることもできる。ただし余裕がある場合に限り。 キュルケにとってのルイズは、危なっかしく目が離せない妹――ルイズに聞こうとキュルケ本人に聞こうと言下に否定されるだろうが――のような存在だった。 だが、そこにはキュルケが見たことのないルイズがいた。 異相? 異様? 違う。これは……異形。 呆けているのではない。確固たる意思を持って半ば開かれ、半ば閉じられた口。 怒りとも笑いともとれない角度で押さえつけられている柳眉。 そしてその眼。平生の桃色でも絶望の黒でもない。そこには何も無い。『何も無い』があった。ただあった。 眼球が零れ落ちる寸前まで瞼が押し広げられ、瞬き一つ無く……。 キュルケは意識することなく一歩退いた。一歩退き、その事に気づいて戦慄した。 使い魔がこの場から離れていないとすれば、召喚主であるルイズが誰よりも危険に晒されているということになる。 ま、たまには恩を売ってやってもいいかもね……その程度の軽い気持ちでルイズの傍らに寄った。 庇護すべき対象だったはずのルイズに恐怖した。その事実がキュルケを戦慄させる。 この子は……この子は何だ? 何を見ている? 分からない。分からないことがたまらなく恐ろしい。 「おびえる必要はないよ」 キュルケの肩に手が置かれた。 「ルイズちゃんは集中しているだけなんだ」 「集中……?」 キュルケが振り返った先には女性用の下着をかぶった熊がいた。 「ここで使い魔をゲットしなくちゃ破滅が待ってる……追い詰められたルイズちゃんのインスピレーションがいつもの何倍も働いているんだ」 二本足で立つ熊が訥々と、だが自信ありげに語る。 「あの悪い目つきはその印だよ。あの鋭い目から逃げられる犯人は一人もいないんだ」 キュルケがふっと息をはいた。タバサとシルフィードは黙して動かない。 ギーシュ達三人は震えている。マリコルヌは汗を拭った。コルベールは息を殺している。 「さあ始まるぞ。ルイズちゃんの名推理が……!」 <読者への挑戦状> さあ、材料は全て揃った。 あなたは事の真相を見抜くことができるかな?
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前ページ次ページゼロのアトリエ 「お皿があるね」 「あるわね」 「何だか貧しいものが入ってるね」 「入ってるわね」 「…」 (ああー、た、頼むから怒らないでよ? わ、わたしのせいじゃ、ないんだから…) ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師5~ こんなはずじゃなかった。もっといいものを頼んであげよう、そう思って厨房に行ったのに。 この私が頭を下げて(さんざん自分の偉大さを吹聴した後にほんの少しだけ) 彼らの能力をこの上もないほど評価して(貴族風をぴゅーぴゅー吹かせて) 準備金まで用意して渡してあげるって言ってるのに(金に汚い平民を心底毛嫌いした態度で) なんであのオヤジがあんなに怒っていたのか、皆目見当もつかない。 余分な材料はないの一点張りで、ようやく渡されたのが山盛りのパンの耳だけ。 案の定、ヴィオラートは無言でその皿を見つめて立ち尽くしている。 今のルイズには、ヴィオラートの反応をただ見守る事しかできない…。 「そっか…ごめんね、気がつかなくて。」 何を納得したのか、ヴィオラートはいつにもましてルイズに暖かい視線を送る。 「貴族って言っても、色々あるもんね。余裕ない事だってあるよね?」 なにか勘違いされているようだ。ルイズのことを貧乏貴族とでも思ったのだろう。 「あたしは自分で何とかするから大丈夫だよ。他の使い魔さんたちと一緒に食べてくるね?」 そういい残すと、ヴィオラートは粛々と食堂を去って行く。 (な、なんでまた私がこんな…ああもう、善意、善意…ヴィオラートは善意でやってるんだから…) ルイズの独り相撲は、ヴィオラートが満足顔で帰ってくるまで延々と展開されていた。 朝食が終わると、授業の時間だ。 ルイズたちが教室の扉をくぐると、教室の生徒達から無遠慮な視線が飛んできた。 中には指を挿して笑っている不届きな生徒もいる。先ほどのキュルケもいた。 なるほど、男子生徒に囲まれてご満悦のようだ。口だけではない、ということか。 教室の中には、生徒と共に様々な使い魔が入り込んでいるようだ。 ヴィオラートの世界ではモンスターとして忌み嫌われるだけの存在の多くが、この世界では使い魔として人々の役に立っている。 何よりヴィオラートもこの世界では異邦人、ある意味ここにいる使い魔たちと同じ存在である。 自分の倒してきたモンスターさんたちの中にも、仲良くなれるひとはいたかもしれない。 ヴィオラートはほんの少し、そんな感傷を脳裏に浮かべた。 ルイズが席に座ると、ヴィオラートもそれにならって隣に腰掛ける。 ルイズは思わずヴィオラートに顔を向けるが、 「ん?」 悪意のない、楽をしたいという気持ちすら読み取れないまっさらな笑顔を見せられると、何も言えなくなってしまう。 (悪意が見えないってのが、調子狂う原因よね…) ルイズはもはや諦観といった感覚で、ヴィオラートを俯瞰して見てみる。 どちらかといえば地味な部類に入るが、それを含めて魅力的と感じる男性は意外に多いように思える。 気性は善良ではたらきもの、女よりもお嫁さんとしてのアピールが自然に出てくるタイプ。胸連峰には劣等感を刺激されるが、キュルケのようにそれをひけらかすわけでもない。新しい環境への適応力は抜群だし、錬金術?という特殊技能まで兼ね備えている。 (まったく、良い子ちゃんを体現したような高スペック体ね) 何だかもう、ヴィオラートに対してつっぱるのが馬鹿らしくなってきた。 というか、 ヴィオラートに頼るのも悪くないかな、そんな考えがルイズの頭の中を占めるようになってきた。 (ま、そんなヴィオラートが私の使い魔なんだし…やれることはやってもらっても…いいかな。) シュヴルーズ先生の『錬金』授業を熱心に聞くヴィオラートの横顔を眺めながら、ルイズの意識は深いまどろみの中へと落ちていった… 「…ル、ミス・ヴァリエール!!」 「はひっ!?」 ルイズにとっては一瞬だったような気がするが、かなり長い間舟を漕いでいたらしい。 さすがに放置できなかったか、シュヴルーズ先生がルイズの頭を軽く叩いて呼び覚ます。 「ずいぶんと余裕をお見せになっているようですけども。」 「すいません…」 「では、あなたにやってもらいましょう。」 「え? わたし?」 「そうです。基礎錬金です。ここにある石ころを、金属に変えてごらんなさい。」 ルイズは立ち上がらず、戸惑うような表情を浮かべて周囲を見渡す。 ふと、キュルケと視線が合ってしまった。すると。 「先生、危険です。やめといたほうがいいと思いますけど。」 キュルケが、味わい深い困り顔でシュヴルーズに忠告する。しかし。 「失敗を恐れていては何も変わりません。ミス・ヴァリエール、やってごらんなさい。」 むしろ、たきつける方向に向かってしまったようだ。 「やります」 ルイズは緊張した顔で、石のある教壇の方へと歩を進めた…。 結論から言うと。基礎錬金は見事に失敗し、四散した。 いや四散どころではなく、消し飛んだ。 爆心地にいたシュヴルーズ先生は重傷。マリコルヌも重傷。 キュルケその他の生徒は避難していて、無事。 ルイズと何も知らないヴィオラートの顔は、すすだらけになった。 ヴィオラートはゼロのルイズという名前の由来を、知った。 前ページ次ページゼロのアトリエ
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前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第三十九話「無敵の春奈」 電脳魔人デスフェイサー サーベル暴君マグマ星人 異次元宇宙人イカルス星人 反重力宇宙人ゴドラ星人 憑依宇宙人サーペント星人 四次元ロボ獣メカギラス ロボ怪獣メガザウラ 侵略変形メカ ヘルズキング 登場 現在はマグマ星人たち宇宙人連合に占拠された学院長室。才人、ルイズ、更にウェザリーも 侵略者たちの攻撃で倒れ、立っているのは宇宙人のみ。外にはデスフェイサーが仁王立ちして、 こちらを見張っている。 『さぁ、サーペント星人! まずは女のガキの方からやっちまいな!』 マグマ星人はルイズの息の根を止めるように命令するが、サーペント星人は反対した。 『まぁ待て。この娘は連れ帰って、研究材料にするのがいいだろう。この星の人間の魔法とかいう 能力は、我々からしたら大したものではないが、この娘だけは別のようだ。宇宙でも類を見ないほど 強力な力を宿しているらしい』 ルイズが『虚無』の魔法の力を有していることは、既に敵にばれているようだった。 『それを利用できるようになれば、我らの力は格段に高まる! ヤプールをも出し抜けるように なるかもなぁ。クックックッ……』 「いや……来ないでッ!」 悪だくみを働かせて、ルイズに手を伸ばすサーペント星人。そこに、 「ルイズに近づくんじゃねぇよ、寄生ナメクジ野郎……!」 才人が、もうボロボロの状態ながら、懸命に立ち上がってサーペント星人を制止した。 「春奈の身体を返しやがれ……! それ以上、人様の身体で好き勝手するんじゃねぇよ……!」 『ふん、まだ立ち上がれるだけの力があったか』 サーペント星人は白けたように鼻を鳴らすと、才人に近寄って殴り倒した。 「ぐあぁッ!」 「サイトぉッ!」 『いい加減目障りだ。やはり、先にお前を、ウルトラマンゼロごと始末しよう』 仰向けに倒れた才人の胸を踏みつけ、手にエネルギーを溜めてとどめを刺そうとする。 ルイズは焦燥して考えを巡らした。 (止めないと! でも、ハルナの身体に手出しすることは出来ない……どうしたら……!) 考えに考えた末に、大きな博打に出ることにした。 (ハルナの想いの強さに、賭けよう!) 今にも怪光線を撃とうとしているサーペント星人を見据え、叫ぶ。 「ハルナ、目を覚ますのよッ!」 『んん?』 サーペント星人は手を止めて、ルイズに表情のない顔を向ける。ルイズはその下の春奈へと、 呼びかけ続ける。 「今足の下にいるのが誰か分かる? サイトよ! ハルナあなた、サイトのことが好きなんでしょ!? それくらい、見てれば分かるわ! 助けてもらった以上の好意を、サイトに向けてた! その好きな相手を、 自分の手で殺めていいの!?」 『イカカカカカカ! あの子供、馬鹿なことをしてるじゃなイカ!』 『全くだ! サーペントに意識を乗っ取られた時点で、元の身体の持ち主の意識は消えてんだ! それを呼び起こそうなんて、全くの無駄だぜ!』 イカルス、マグマ星人らはルイズを嘲笑するが、ルイズは構わずに呼びかけた。 「ハルナ、目を覚まして! あなたが本当にサイトを想ってるなら、侵略者に負けちゃ駄目よ! 今サイトを助けられるのは、あなたしかいないの! サイトを助けて! ハルナぁーッ!!」 『ふん、何を馬鹿げたことを……』 サーペント星人もルイズを鼻で笑うが、その直後に、 『ぬうぅッ!?』 突如頭を抱えると、才人から離れて悶え苦しみ始めた。 『ん!? おいどうした! 急に頭抑えて!』 『風邪でも引いた?』 不可解な行動にマグマ星人たちは驚かされる。一同の見ている中で、サーペント星人は うめき声を上げる。 『な、何だこの力は!? 意識が遠くなりそうだ……! くッ……平賀くん……!』 「!? ハルナ……ハルナなのか!?」 サーペント星人の口から、春奈の声が漏れたのを、才人は確かに耳に留めた。 『高凪春奈か!? お前の意識は消滅させたはずなのに……! 人間の子供如き……! 俺の意識を乗っ取ろうというのか……! あ、あ、ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』 サーペント星人の両手が頭から離れると、その頭部がひび割れ、勢いよく弾けた! 『な、何ぃッ!?』 『頭がパッカーンと割れたじゃなイカぁ! 痛そう!』 仰天するマグマ星人たち三人。それとは対照的に、ルイズと才人は、サーペント星人の 顔の下から出てきた春奈の顔立ちを目にして歓喜した。 「春奈!」「ハルナ!」 「ルイズさん、ありがとう。平賀くん……今、助けるからね!」 サーペント星人から身体を奪い返した春奈は、すぐさまマグマ星人らに飛び掛かっていった。 「えーいッ!」 『おわぁぁぁぁ―――――!?』 『イカぁ―――――!』 春奈は片手で宇宙人たちの身体を掴むと、軽々と投げ飛ばして壁に叩きつけた。今の春奈は、 星人のパワーを自分のものとしているのだ。そのため、マグマ星人らに対等に渡り合うことが出来る。 『くっそぉ! 何てぇことだ……ここまで来て、逆転されてなるものかぁッ!』 マグマ星人の指示で、イカルス星人がアロー光線、ゴドラガンを撃つ。だが春奈は腕で 顔をガードしながらそれを突っ切り、二人を張り倒した。 『何だとぉ!? ちくしょぉッ! どうしてたかが人間の子供なんぞが、サーペント星人の 意識を乗っ取り返せる! どこからそんな力が湧いて出てくるんだぁッ!』 「簡単なことよ!」 訳が分からずにわめくマグマ星人に、ルイズが言い放った。 「恋する女の子は無敵なのよ!」 「うりゃあああぁぁぁぁぁ―――――――――――!!」 『ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!』 宇宙人たちは、春奈の怪力によって窓から外へ放り出された。 これで助かったように見えたが、最大の敵が残っていた。デスフェイサーが右腕を持ち上げ、 ビーム砲を学院長室に向けたのだ。ルイズたちを纏めて吹き飛ばそうというつもりらしい。 「ま、まずいわ!」 焦るルイズ。さすがに今の春奈でも、デスフェイサーの砲撃は受け止められない。 「俺たちが行く! デュワッ!」 すると才人が、残った力を振り絞って駆け出し、ウルトラゼロアイを装着して変身した。 光が外へ飛び出し、ウルトラマンゼロとなってデスフェイサーをがっしり捕らえる。 『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』 最初からカラータイマーが点滅している状態だが、ゼロはデスフェイサーの巨体を持ち上げ、 投げ飛ばして学院から突き放した。デスフェイサーはジェット噴射で速度を緩め、着地する。 ウインダムとミクラスをカプセルに戻してデスフェイサーと対峙するゼロ。しかしその周囲に、 マグマ星人、イカルス星人、ゴドラ星人が巨大化して出現した。 「オオオオオオオオオオ!」 『こなくそぉッ! 大分予定が狂ったが、テメェさえ仕留めればそれでいいんだ! ウルトラマンゼロ、 ここで死ねぇッ!』 飛膜のような短いマントにサーベルと、反対の腕にフックを装着した、本気の状態のマグマ星人が 宣告すると、宇宙人たちが攻撃を開始する。 『ちッ……来るなら来やがれ!』 ゴドラ星人のハサミの突きをかわし、腰部にキックを入れて返り討ちにする。だが無防備なところを イカルス星人が狙う。 「オオオオオオオオオオ!」 イカルス星人の全身から放たれたアロー光線を、すんでのところで横にそれて回避するゼロ。 野原に命中したアロー光線は大地を焼き尽くし、焦土に変えてしまった。 攻撃をかわしたゼロだが、その動きをデスフェイサーに読まれていた。止まったところに ガトリングガンを撃ち込まれる。 『ぐあああぁぁぁぁッ!』 『ハッハァッ! いいザマだウルトラマンゼロぉ!』 更に飛び掛かってきたマグマ星人にサーベルで切り裂かれた。その上で、アロー光線と ゴドラガンの集中攻撃を浴びる。 『がっはぁッ!』 先の負傷で満足に動けず、一対多で追い詰められる状況はアルビオン戦に似ているが、 決定的な違いは、ミラーナイトたちが手一杯で、助けに来てくれないということだ。 ゼロはなす術なく四人の敵になぶられ続ける。 『テメェの逆転の目は全て奪ってある! もうテメェを助ける奴は、どこにもいないんだよぉッ!』 「それは違うわ! ゼロはわたしが助ける!」 マグマ星人の台詞を、学院の屋上に上って戦況を見渡したルイズが否定した。その後に ついてきた春奈が問いかける。 「でもルイズさん、どうやって平賀くんたちを助けるんですか? 爆発ですか?」 今の春奈は意識を乗っ取り返したことで、サーペント星人の知識の一部も吸収していた。 才人とルイズの秘密もはっきり理解していた。 「違うわ。残念だけど、あの巨大な敵を薙ぎ倒すには、精神力が足りないもの」 「じゃあ、どんな魔法を……」 「こういう時にゼロをサポートできるような呪文を、昨晩祈祷書と向き合って開眼しておいたの。 それを披露するわ!」 ルイズは杖を手に、『虚無』の魔法特有の長い呪文を早口に詠唱した。そして杖を天高く掲げて、 魔法の光をスパークさせる。 「出でよ、ここになきもの……。ここにあるように。イリュージョン!!」 『こいつで終いだぁ!』 デスフェイサーのビーム砲がゼロに向けられ、強力な熱線が照射された。瀕死のゼロは、 立ち尽くしたままよけられない。命中する! ……と思われたが、何と熱線は、ゼロの身体を貫通してそのまま通り過ぎていった。 ゼロは何事もなかったかのように立ったまま。 『な、何ぃーッ!?』 マグマ星人は目を見張り、そして周囲を見回して、もっと衝撃を受けた。 『なぁーッ!? こ、こいつはどうしたことだぁーッ!?』 何と戦場に、ウルトラマンゼロが数え切れないほどの人数で存在していた。突然のありえない事態に、 宇宙人たちはパニックを起こす。 これぞルイズの新たな魔法、初歩の初歩の『イリュージョン』。効果は単純に幻影を作り出すことだが、 ルイズ自身の記憶から生み出されるそれは非常に精巧で、マグマ星人たちはどれが本物のゼロか 全く見分けられないでいた。 『これはイカがしたことか!? ゼロのはなたれ小僧がいっぱいいるじゃなイカ!』 『誰がはなたれだッ!!』 イカルス星人を後ろからゼロが殴り飛ばした。 『イカいッ! じゃなくて痛いッ!』 『この野郎ッ!』 マグマ星人がサーベルを振るうが、その時には既に幻とすり替わっていた。サーベルは空振りする。 デスフェイサーは無数のゼロを見回して、どれが本物か分析しようと電子頭脳を働かせた結果、 違いを見分けることが出来ず、オーバーフローを起こして棒立ちになった。電子頭脳の限界だ。 『ルイズが助けてくれたのか……』 敵がすっかり狼狽している中、本物のゼロは自身のカラータイマーを見下ろした。その点滅は止まり、 色は青に戻っている。 『この現象……タルブ村でも起こったな。もう偶然じゃねぇ、ルイズの魔法の影響に違いない』 自分のエネルギーが回復した原因がルイズにあると確信したゼロだが、ではどうしてそうなるのかは、 皆目見当がつかなかった。 『まぁ考えるのは後だ。ルイズが作ってくれたチャンス、逃す訳にはいかねぇぜ!』 ゼロは思考を切り替え、明後日の方向を向いている敵たちへ駆けていった。 「キィ――――――!」 『ぐぅッ!』 ミラーナイトたちは、ロボット怪獣軍団と戦い続けている。メカギラスは次元移動能力を駆使して 神出鬼没の動きを見せ、ミラーナイトを全方位から砲撃し続けていた。 が、その最中に、突然ミラーナイトの姿がパキーン! と音を立てて砕けた。鏡だったのだ。 「キィ――――――!?」 『こっちですよ!』 メカギラスの背後から飛び出すミラーナイト。メカギラスは首を回してミサイルを撃ち込んだが、 それも鏡に映った虚像だった。 『いえ、こっちです!』 ミラーナイトがまた別方向から飛び出し、メカギラスは首をそちらに向けて砲撃。だがそれも鏡。 気がつけば、周囲全てからミラーナイトが飛び出してくるようになっている。すっかり立場が逆転していた。 ミラーナイトは、メカギラスが四次元空間に退避している間に密かに鏡を作って辺りに並べていた。 そして今のこの状況を作り出したのだ。 「キィ――――――!」 メカギラスは現れるミラーナイトの虚像に、その都度ミサイルを発射していくが、首を回し過ぎた結果、 摩擦熱でショートを起こしてしまった。動きが停止したところで、本物のミラーナイトが大地に降り立つ。 『せやッ!』 ミラーナイトが放ったミラーナイフは、メカギラスの背後の鏡に当たって反射、後ろから メカギラスに直撃した。メカギラスのバリヤーは強力だが、首を向けている方向にしか展開できないのだ。 メカギラスは首と両腕が切断されて吹っ飛び、大爆発を起こした。 「ギャアアァアアアアァ!」 メガザウラはチェーンつきの両手を伸ばしてジャンボットを捕らえ、レーザーを撃ち続けて 彼を追い詰める。 しかし、ジャンボットの鋼鉄の勇気と根性は、その程度では屈しないのだ。 『何の、これしきぃッ! ジャンブレード! うおおおぉぉぉぉッ!』 ジャンブレードを露出すると、レーザーを食らい続けながら、メガザウラに突撃した! 『はぁぁぁッ!』 「ギャアアァアアアアァ!」 メガザウラはチェーンと翼を切断され、フラフラと墜落していく。同じ感情回路を搭載していても、 勇気を持たないメガザウラでは、ジャンボットの行動を完全に予測することは出来なかったのだった。 『ビームエメラルド!』 そしてとどめのビームが決まり、メガザウラは木端微塵に砕け散った。 「ゴオオオオオオオオ!」 『俺も負けてらんねぇぜ! ファイヤァァァァァ――――――――――――!』 グレンファイヤーも二人の奮闘に触発して燃え上がり、ヘルズキングの砲撃をその身一つで 受け止めながら接近、乱打を撃ち込んだ。その内の一発が、喉に炸裂する。 「ゴオオオオオオオオ……!」 その途端にヘルズキングの挙動が狂い、滅茶苦茶な方向に光弾を撃ち始めた。 『んッ! そこが弱点だったのか。ラッキーだぜ! ファイヤースティック!』 グレンファイヤーはスティックを取り出すと、無防備になったヘルズキングの喉に殴打を見舞った。 『ファイヤーフラァーッシュッ!』 その一撃が決まり手となり、ヘルズキングはぶっ倒れて爆散した。 こうしてロボット怪獣たちは三体とも撃破された。 『せぇぇいッ!』 『うげぇーッ!』 そしてゼロの方も、すっかり逆転を果たして宇宙人たちを押し返していた。宇宙空手の 鉄拳がマグマ星人とイカルス星人を地にねじ伏せる。 それを目にしたゴドラ星人は、背を向けて飛び立ち、空の彼方へ逃走し始めた。 『あぁこらぁッ! 逃げるんじゃねぇよッ!』 「ジュワッ!」 マグマ星人が怒鳴る。ゼロも逃走を許さなかった。ゴドラ星人の背にエメリウムスラッシュを 撃ち込み、一撃で撃墜した。 「デェヤッ!」 「オオオオオオオオオオ!」 振り返りざまにゼロスラッガーを投擲。起き上がったところのイカルス星人の腹部を貫通した。 イカルス星人は瞬時に絶命してバッタリ倒れる。 『く、くそぉぉぉーッ! 来るんじゃねぇーッ!』 マグマ星人は狂乱してサーベルを振り回すが、本物のゼロはその時、地を蹴って宙に舞い上がっていた。 『でええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいッ!!』 『うぎゃああぁぁぁ――――!?』 ウルトラゼロキックが決まり、マグマ星人は大きく吹っ飛ぶ。更に着地したゼロはウルトラゼロランスを 取り出し、投げつけた。 『フィニッシュだぁッ!』 『ぐげがッ……!』 ランスは倒れたマグマ星人の胸に深々と突き刺さった。春奈をこの世界にさらってきてから 暗躍し続けていたマグマ星人はこれであっさりと息絶え、遺体は完全に消滅した。 同時に『イリュージョン』の効果が消え、ゼロは元通り一人だけになる。それによりデスフェイサーは 機能停止から立ち直り、ようやく再起動した。 『へッ、今頃正気に戻ってもおせぇんだよ!』 ゼロは右手を握り締めると、それを赤く燃え上がらせる。そしてデスフェイサーが攻撃を 再開する前に突撃を掛けた。 『俺のビッグバンはぁ! もう止められないぜぇぇぇぇッ!』 握った右手を開いて平手を作り、正面から迫っていくゼロ。デスフェイサーはゼロの行動を予測し、 顔面の前で腕を×字に組み、ガードを作った。 「デヤァッ!!」 ゼロはガードに熱く燃えるチョップ、ビッグバンゼロを叩き込んだ。するとチョップが爆発! デスフェイサーの肘から先が粉砕された! 「おぉぉッ!」 思わず歓声を上げるルイズと春奈。一方、両腕を失ったデスフェイサーは飛び上がり、 胸部の蓋を開いてネオマキシマ砲の砲身を迫り出した。 「あの武器は……!」 トリスタニアでの惨状を思い出して絶句するルイズ。しかし、肝心のゼロは余裕すら見せていた。 『またそれか! お前の技は見切った! 同じ手は通用しねぇぞ!』 言いながら、ゼロスラッガーを両手に握る。 『そっちが俺の戦闘データを記録してるのなら、こっちはとっておきを見せてやるぜッ!』 更にデルフリンガーを出し、それを交えてスラッガーを連結。一振りの巨大な剣へと変じさせた。 『うおぉッ!? もう一人の相棒、こいつはどういうことだ!? 俺っち、どうなったんだ!?』 剣からはデルフリンガーの声がする。ゼロは彼に答えた。 『ゼロツインソード・デルフリンガースペシャルだぜ! 前々から、この技を考えてたんだ!』 ゼロツインソード。ゼロがプラズマスパークの光の恩恵を受けて生まれた、ゼロの切り札の一つだ。 そしてそれにデルフリンガーも合成することで、その意思をツインソードに宿すと同時に、切れ味を 更に上昇させた。仲間の絆が作る、悪を切り裂く至高の剣だ。 『行っくぜぇデルフ! でやぁぁぁッ!』 ゼロツインソードDSを手に、ゼロはデスフェイサーへとまっすぐ飛び立つ。ネオマキシマ砲の エネルギーチャージはまだ掛かる。 『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ! おおッ!!』 破滅の光が放たれるより早く、ゼロの斬撃が決まった。デスフェイサーは上下に真っ二つになり、 地上へと落下していった。 「やったぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 ゼロの完全勝利に、ルイズと春奈は手を繋ぎ合って喜びを分かち合った。 「シェアッ!」 全ての敵を撃破したゼロは、いつものように空に飛び立って帰っていく。その後には、 ミラーナイト、ジャンボット、グレンファイヤーが続いた。 「ホッホッ。ウルトラマンゼロは無事に勝てたようじゃのぉ」 ルイズと春奈が学院長室に戻ると、いつの間に戻ってきたのか、オスマンがウェザリーを 見張りつつ二人を迎えた。 「オールド・オスマン!? ご無事だったんですか!」 「学院のみんなもじゃよ。侵略者の生き残りはもう排除した。これで一件落着ということじゃな」 オスマンは愉快そうにヒゲを撫でる。だがウェザリーは反対に、悔しげに舌打ちした。 「これで、私の望みも潰えたということか……」 「何悔しがってるのよ! 侵略者の奴らは、あんたまで始末しようとしてたじゃない!」 ルイズが咎めると、ウェザリーはこう語った。 「私には、命に代えても果たしたい目的があったのだ……」 「相当な事情があるみたいじゃな。そもそも、どうして侵略者と手を組んでおったのか。 とりあえず、話してみては下さらんか? まぁ、悪いようにはせん」 オスマンが窺うと、ウェザリーは観念したかのように語り始めた。 「ハルナには話したけど、私は元は貴族の身分だった。どこの国だと思う? ここ、トリステインよ」 「そうだったんですか……!」 春奈やルイズが驚く。 「じゃあ、ウェザリーさんの家を取り潰しにしたのは……」 「もちろんトリステイン王宮よ。父が獣人を娶ったというだけで、身分も領地も、家族も何もかもを 失った私は、トリステインを恨んだ。復讐を果たし、もう一度家族と、村の人たちと穏やかに暮らしたかった……。 そのために、レコン・キスタと侵略者たちが持ち掛けてきた協力に応じたのよ……」 「なるほど。そういう事情じゃったか」 ウェザリーの身の上を聞いたオスマンはうなずくと、彼女に尋ね返す。 「しかしお主、考え違いをしておるのではなかろうか?」 「何? どういうことだ?」 意外なひと言に、目を見開くウェザリー。オスマンは続けて言う。 「確かに獣人がいわれのない差別を受けているのは事実。しかし……貴族の身分の剥奪の原因は、 お主の使う催眠魔法じゃろう。それは禁忌……触れただけで大罪じゃ。多分、じゃが。お前の両親が 真実を伝えなかったのは、そなたに禁忌を忘れてほしかったからじゃの」 「……なるほど。確かに人の心を操る魔法は禁忌だな。しかし、差別を受け続けた私は、 その考えが出てこなかった。私の魔法が私を苦しめていたかもしれないということに……」 オスマンに説かれ、ウェザリーは憑き物が落ちたかのように脱力した。 「何にせよ、私は負けたことに変わりない。今更ジタバタするつもりもない。好きにするといいさ」 「それを決めるのは王宮じゃ。まぁ、お主も辛い思いをしたんじゃし、私から情状酌量を図ろう。 じゃから、ちゃんと罪を償うんじゃぞ」 オスマンの計らいにより、ウェザリーの件にも決着がついたのだった。 トリステインに迫っていたレコン・キスタの艦隊は、マグマ星人たちの全滅と同時に撤退。 最大の窮地に追い込まれていたトリステインだが、どうにかその危機を免れることが出来た。 ウェザリーはオスマンの口添えとレコン・キスタと宇宙人連合の情報を提供することにより、 大分刑を軽くされたという。数ヶ月もしたら自由の身となり、また劇団として各国を回るようだ。 そして、春奈は……。 「……それじゃあ、ルイズさん、シエスタさん、お別れですね。短い間でしたし、色々迷惑を 掛けちゃったけど、大変お世話になりました。とても感謝してます」 学院から少し離れた草原の只中まで、ルイズ、シエスタ、才人と、元の姿に戻った春奈は やってきていた。春奈はルイズたちに別れの挨拶を告げる。 これから、春奈はゼロに送られて、M78ワールドに帰還するのだ。 「ちょっと寂しくなりますね……」 「帰ってからも、元気でやりなさいよ。もうさらわれないように、気をつけなさい」 シエスタとルイズはそう返答した。それから、ジャンボットが言う。 『しかし、人の身体を奪うなど全く許せんやり口だが、そのお陰でハルナが帰還できるように なったというのは、皮肉というか、奇妙なものだな。不幸中の幸いと言うべきか』 春奈はサーペント星人から身体を奪還し、見た目も元通りになったが、その力の影響はまだ残っている。 その気になれば怪力や超能力をいくつか使えるし、何より宇宙空間で生存することが出来る。これにより、 ゼロが元のM78ワールド宇宙まで送り帰すことに何の問題もなくなったのだ。 しかしゼロたちの診断によると、この影響は数日もすれば消えてなくなってしまう。つまり、 帰るのは今でないといけないのだ。それでいささか急になるが、春奈はこれから地球へと送り帰されるのである。 「皆さんのことと、このトリステインでの日々のことは、一生忘れません。それと……その……」 春奈は不意に才人の顔を一瞥すると、ルイズたちに目を移し、もじもじと頬を赤くした。 それでルイズが察して、シエスタの手を引く。 「シエスタ。ちょっと離れるわよ」 「えぇッ!? いいんですか!?」 春奈がこれから何をしようとするのかを、乙女の勘で理解したシエスタは慌てたが、ルイズが制した。 「これが最後になるかもしれないんだし、ハルナに譲ってあげましょう。さぁ、ほら」 「うぅぅ~……!」 ルイズにしてはかなり寛容な心を見せ、シエスタを連れて距離を取る。春奈は頭を下げて 感謝の気持ちを示すと、才人に真剣な面持ちで向き合った。 「平賀くん……聞いてただろうけど、私の口から、改めて告白します」 「うん……」 「……あなたが好きです。いつか、平賀くんも地球に帰れるようになったら、私とおつき合いして下さい」 女の子から愛の告白をされるという、人生で初めての経験をした才人は、にっこりと笑った。 「ありがとう。そういうこと言われるの初めてで、ほんと嬉しい」 しかし、すぐに告げる。 「でも、ごめんな。悪いけど、今はそういうこと、考えられないんだ。帰れるようになっても、 春奈とつき合おうとは、今は思えない。嫌いって訳じゃないんだけど……」 曖昧な拒否の理由だったが、春奈は納得したようだった。 「ううん、いいの。多分そう言うんだろうなーって、薄々思ってたから。……ルイズさんと すごく仲いいみたいだし」 「え? 今、何か言ったか」 「何でもないッ!」 最後の小声を聞き返す才人だが、春奈はとぼけた。そこにゼロが呼びかける。 『そろそろいいか? 春奈、お前を向こうの宇宙に送り出すと一緒にウルトラサインを出す。 それでウルトラの星のみんなが、お前を見つけてくれるはずだ。そしたら事情を説明して、 地球へ届けてもらうんだぜ』 「はい。ゼロさん、お願いします。ルイズさんたちも、もういいですよー!」 ルイズらを呼び戻すと、才人がゼロアイを取り出す。春奈はもう一度、改めてルイズらに別れを告げた。 「ルイズさん、シエスタさん! ……平賀くん! さようなら! 絶対、絶対忘れないからねぇッ!」 「ええ! さようなら、ハルナ! わたしたちのお友達!」 「デュワッ!」 才人がゼロに変身すると、ゼロは手の平の上に春奈を乗せた。春奈が大きく手を振るのに、 ルイズたちも手を振り返す。 『よぉし、行くぜッ!』 ゼロはウルティメイトイージスを展開し、身に纏うと空へ飛び上がる。ぐんぐん地表を離れて ハルケギニアからも脱すると、イージスの力により宇宙空間も越え、はるかM78ワールドへと飛んでいく。 こうしてハルケギニアに迷い込んだ地球人の少女は、無事に故郷の宇宙へ帰還していったのだった。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
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前ページ次ページ大使い魔17 だがだん♪ だがだんだがだん♪ 「大使い魔ー、ワーンセブーン!!」 オゥオオー オゥオオー 彼こそは~ オゥオオー オゥオオー 大使い魔~ワンセブ~ン 燃える真っ赤な太陽 ギラリ輝く装甲 見よ! 右手の虚無のルーン 風の唸りか雄叫びか~ イザベラ企画の大殺戮 立て! 要塞ワンセブン 防げる者は他になし オウゥオゥオゥ オゥオオー オゥオオー 彼こそは~ オゥオオー オゥオオー 大使い魔~ワンセブ~ン 第二話「最終兵器! 汝(なれ)の名はグラビトン!」(ノコギリロボット登場) 「朝~、朝~、寝坊は美容の大敵ぃ~~。ルイズちゃん、オハヨ~」 珍妙な目覚ましコールでものの見事に目が覚めたルイズは、前に突き出した両腕を上下にフリフリさせているロボターを見て、自分がワンセブンを召喚した事を思い出した。 「……おはよう、ロボター。何で踊ってるの?」 「ん~、何となく」 ロボターの返事に頭痛を感じかけたルイズは、気を取り直して窓を開けた。 「おはよう、ルイズちゃん」 「おはよう、ワンセブン」 ワンセブンに朝の挨拶をしたルイズの顔は、思いっきりニヤけていた。 着替え終わり、ロボターを連れて寮を出たルイズは、食堂へと続く廊下でシエスタと顔をあわせた。 「あ、おはようございます、ミス・ヴァリエール、ロボターくん」 「おはよう、シエスタ」 「シエスタちゃん、オハヨ~」 「ねえ、シエスタ」 「何でしょう?」 「いつの間にロボターのこと知ったの?」 「実は昨日の夜……」 回想シーン 「洗い場~、洗い場~」 独り言を言いながら洗い場を探していたロボターは、洗濯籠を持って歩いているシエスタを見て、洗い場がどこにあるかを聞くために声をかけた。 「シエスタちゃん、シエスタちゃ~ん」 自分を呼ぶ声に反応したシエスタは、振り向いた瞬間に視界に入ったロボターの姿を見て固まった。 「誰!? っていうか何故私の名前を?」 「私が教えた」 ロボター以外の声がした方向に首を動かしたシエスタは、そこにいたワンセブンの巨体を見て更に固まった。 「私はワンセブン。ルイズちゃんの使い魔だ」 「あ、あなたが、ミス・ヴァリエールが召喚した巨大な喋るゴーレムなんですか?」 「確かに私は巨大で言葉を喋る。だがゴーレムではない」 「そ、そうなんですか……? そういえば、何故ワンセブンさんは私の名前を?」 「……ルイズちゃんと契約したからだ」 「そ、それはどういう意味ですか?」 「そのままの意味だ。ルイズちゃんが契約のキスをしたときに、ルイズちゃんの記憶、知識、個人情報が私の頭に流れ込んだのだ。君の名前も、ルイズちゃんの記憶で知った」 ワンセブンの説明にあいた口がふさがらないシエスタに、今度はロボターが話しかけてきた。 「シエスタちゃん、そういえば洗い場ってどこ?」 この一言と、ロボターが手に持って振り回しているルイズの下着を見て、ロボターが洗い場を探していることに気が付いたシエスタは、ロボターを連れて洗い場へと向かった。 「……という訳なんです」 「そうだったの……」 ほかの生徒たちの視線がロボターに集中する中、ルイズとシエスタの会話は続いた。 午前の授業は失敗魔法による爆発以外にさしたるアクシデントもなく終わり、ロボターと一緒に教室の後片付けを終えたルイズは、駆け足で食堂へと向かった。 「ワンセブンから聞いていたけど、あそこまで強烈とは……おっとっと」 あわてて喋るのをやめたロボターを見て、ルイズは苦笑するしかなかった。 食堂に入り、いざ食べようとしたその時食堂が、否、学院全体が揺れた。 周囲が騒がしくなる中、一人の生徒があわてて食堂内に入ってきた。 「ゴ、ゴーレムだ! ヴァリエールが召喚した奴とは違うゴーレムが出てきた!」 この一言を聞いたロボターが、慌てて食堂から出て行ったので、ルイズは後を追った。 ヴェストリの広場に出たロボターと、それを追ったルイズが見たもの、それは異様なものがこちらに迫ってくる光景であった。 その異様なものは、両肩に円形のノコギリが突いているだけでなく、両手と頭部は円形のノコギリそのものであった。 「ノオオオ~~~! あのロボット、ルイズちゃんを狙っているー!!」 「ええー!!」 直後、ルイズを確認したノコギリロボットは、ルイズ目掛けて走り出した。 「イヤーーー!! 何でいきなり走り出すのよーーー!!」 ガゴォン! 両手の回転ノコギリを起動させ、ルイズ目掛けて振り下ろそうとした瞬間、ノコギリロボットは突如飛来したワンセブンの体当たりで弾き飛ばされた。 後ろにいるルイズを守るかのごとく、ノコギリロボットの眼前に立ち塞がったワンセブンは、飛行形態から要塞形態へ、そして戦闘形態へと変形した。 ミヨンミヨンミヨン、ヨヨヨヨヨ、キュピーン! バギィィィィン!! 「ロボター、ルイズちゃんを頼むぞ!」 「了解!」 ロボターがルイズを連れて後退し始めたのを見て、ワンセブンは改めてノコギリロボットと対峙した。 「これ以上ルイズちゃんに近づくな!」 ワンセブンの容赦ない鉄拳がノコギリロボットに直撃し、装甲を損傷させていく。 ノコギリロボットも両手と頭部の回転ノコギリで反撃に出たが、それぞれワンセブンの水平チョップと頭突きでアッサリ破壊された。 「凄い……」 「ルイズちゃん、こんなのはまだ序の口だよ」 「え?」 ルイズとロボターの会話の間も、ワンセブンの戦いは続いていた。 ワンセブンはノコギリロボットに止めを刺すべく、最終兵器を発動させた。 「グラビトォオオオン!!!」 パキューン、パキューン、パキューン、バギィィィィン!! 腹部のシャッターが開き、内部の機械から発射された強大な重力によりノコギリロボットは押しつぶされ、大爆発した。 一部始終を見たルイズは呆然としながら、ロボターに問いかけた。 「何、アレ?」 「アレこそ、超重力で標的を爆破解体する、ワンセブンの最終兵器にして必殺技「グラビトン」!!」 「グラビトンかぁ……」 「一回使うと、半日以上使用不可能になるけどね」 ワンセブンは、ルイズとロボターの会話を聞きながら、別の方向を見ていた。 そこには、人間代の偵察用ロボットが森の木々に隠れて戦いの一部始終を見ていた。 偵察用ロボットが映している映像の送信先 「チキショー! よりによってアイツまでこっちの世界に来ていたなんて!」 「ハスラー、一体何物だ、あのロボットは!?」 「シェフィールドちゃん良くぞ聞いてくれました! 奴こそがワンセブン! ブレインに分身として造られたにもかかわらず、造物主であるブレインに反旗を翻した反逆児よ!」 「あれが、ワンセブン……あのような姿なのか」 モニターに映ったワンセブンの姿を興味深そうに凝視するシェフィールドは、あることに気付いた。 「……ハスラー、ワンセブンの奴、どうもこちらの方を見ているような……」 「本当だ……あ!!」 ハスラーが気付いた直後、ワンセブンの脚から発射されたナイキ級ミサイルが偵察用ロボット目掛けて押しかけ、映像が途絶えた。 「キィイイイッ! ノコギリロボットだけでなく偵察用ロボットまでぶち壊しやがった!」 「……偵察用ロボットの位置まで察知するとは」 突如、ワンセブンが森の一画目掛けてナイキ級ミサイルを発射したため、ロボターは面食らった。 「ワンセブン、どうした!? 何故ミサイルを!?」 「さっきの戦いを見ていた小型の偵察ロボットがいた。だからそいつをミサイルで破壊した」 「ええ!?」 「おそらく、ルイズちゃんを襲ったロボットの仲間」 「あいつらを送り込んだのは一体誰? 目的は何?」 「情報が少なすぎる。向こう側が尻尾を出すのを待つしかない」 ノコギリロボットの残骸を見詰めながら、ルイズは考え事をしていた。 (こいつ、何で私を狙っていたんだろう……) そう考えながら、ルイズは視線をワンセブンに移した。 何故かルイズは、自分の胸から“キュン”という音が出たのを耳にした。 ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ ワンセブン オーオオ セブン セブン ワンセブン 九死に一生ワンセブン(ワンセブン) ルイズといっしょにワンセブン(ワンセブン) レコン・キスタは砕けて散った ご~ぜんいっぱつ~ グラ~ビト~ン OH! 前ページ次ページ大使い魔17
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
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野見「ワンランク上のおっさんは、立派に使い魔の仕事をこなすー!」 ルイズ「あんた誰?」 野見「えーっと、の、野見、隆△□×」 ルイズ「え?最後何?聞こえなかったんだけど?」 野見「野見隆明です!」 ルイズ「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」 チュッ 松本「(笑)見てみぃ、野見の顔」 ルイズ「いい?使い魔は主人を守らなきゃいけないの。でも、アンタ弱そうだから無理よね」 野見「えー私、野見隆明は…………柔道経験者なので…………これから…………ごsnj……護身術を勉強させますので、一緒にがんばりましょう!」 ルイズ「ゴシンジュツって何なの?」 野見「私がセクハラ上司をやりますので、ルイズさんはOLの役をやって下さい」 ルイズ「へ?」 野見「(グラスを持ったフリをしながら)今日は本当にお疲れ様でした、本当に乾杯!!」 ルイズ「え?か、乾杯?」 野見「ぐへへへ、お嬢さんいい胸してんじゃねーかよー」 ルイズ「え?キャッ!ちょ、ちょっと何処触ってんのよ!?」 野見「いいじゃねーかよーえー?(ルイズを押し倒す)」 ルイズ「キャー!!」 野見「いいじゃねーかよー、減るもんじゃないし」 ルイズ「こ、この変態……!!」 野見「……(すくっと立つ)」 ルイズ「……へ?」 野見「あ、あなた何やってんの!?ぜ!?え、しっかりやらないと!!本当にこれじゃダメでしょ!?」 ルイズ「な、何言ってんの?」 野見「え!?これで女性のアレ、皆どうなるの!?全然逃げてないじゃない!!」 ルイズ「ええっ!?」 野見「本気になってやってくれないと、こっちも、ね!!」 ルイズ「……ハイ」 野見「女性が見てるんだからね。しっかりやってくれないとね、本当に」 野見「ルイズさん。今度は私がOLの役をやりますので、ルイズさんは私にセk……セクハラをする上司をやって下さい!」 ルイズ「え?え?」 野見「もっときびきび動いて下さい!」 ルイズ「え、あ、はい」 野見「(グラスを持ったフリをしながら)乾杯!!」 ルイズ「え?か、乾杯……」 野見「いやー。美味しいわ。このサワー美味しいわねえ」 ルイズ「……あ、えっと、こ、これでいいの?(野見の体に触れる)」 野見「!いやーだー、やめてよー」 ルイズ「……」 野見「やめてーやめてよー、やめなさいよ!!」 ルイズ「キャッ!!」 野見「(ルイズの腕を極めながら)もう、本当に止めなさいよ!いい加減にしないと逮捕されるわよ!」 ルイズ「イタタタッ!!」 野見「もう、セクハラ何やってんのよあなた!!」 ルイズ「イタタタッ!!は、離して……」 野見「止めなさい!!(ルイズの腕を離す)」 ルイズ「い、痛いわ……」 野見「ふとって!」 ルイズ「へ?」 野見「ルイズさん、これが護身術なの。ちゃんと真面目にやらないと大変なの!」 ルイズ「あ、え?……ごめんなさい」 野見「聞いてるの?ルイズさん!」 ルイズ(私の方が御主人様なのに……) 野見「もー、本当に。これから頑張っ」 このSSでは、おっさんを募集してはおりません。 決して集まらないで下さい。
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前ページ次ページゼロのアトリエ 船員達の声と眩しい光で、ヴィオラートは目を覚ました。青空が広がっている。 舷側から下を覗き込むと、白い雲が広がっている。船は雲の上を進んでいた。 「アルビオンが見えたぞー!!」 鐘楼の上に立った見張りの船員が声を上げる。 ヴィオラートは眼下を覗き見るが、見えるのは白い雲海、どこにも陸地など見えはしない。 隣でやはり寝ていたらしい、ルイズが起き上がる。 「ねえ、どこに陸地があるのかな?」 ヴィオラートがそう問いかけると、ルイズが「あっちよ」と言って空中を指差した。 「ん?」 ルイズが指差す方向を振り仰いで、ヴィオラートは息をのんだ。 巨大な…まさに巨大としか言いようのない光景が広がっていた。 雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸は遥か視界の続く限り延びている。 地表には山がそびえ、川が流れていた。 「驚いた?」 ルイズがヴィオラートに言った。 「うん。こんなの、見たことないよ…」 ヴィオラートは目を丸くして、呆然と空に浮かぶ大陸を眺めた。 「浮遊大陸アルビオン。ああやって、主に大洋の上をさ迷ってるわ。通称『白の国』」 「白の国?」 問うようなヴィオラートの視線に、ルイズは大陸を指差す。 大河から溢れた水が霧となって、大陸の下半分を包んでいる。 霧は雲となり、ハルケギニアの大地に雨を降らせるのだとルイズは説明した。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師21~ その時、鐘楼に登った見張りの船員が大声を上げた。 「右舷前方の雲中より、船が接近してきます!」 ルイズは言われた方を向く。なるほど、大きな黒い船が一艘近づいてくる。 舷側に開いた穴から、大砲が突き出ている。 「いやだわ…反乱勢、貴族派の軍艦かしら」 後甲板でワルドと並んで操船の指揮を取っていた船長は、見張りが指した方角を見上げた。 「アルビオンの貴族派か?お前達の荷を運んでいる最中だと教えてやれ」 見張り員は手旗を振った。しかし、何の返信もない。 副長が駆け寄ってきて、青ざめた顔で船長に告げる。 「あの船は旗を掲げておりません!」 「してみると、く、空賊か!」 「間違いありません!内乱の影響で、活動が活発化していると聞き及びますから…」 「逃げろ!取り舵いっぱい!」 船長は船を遠ざけようとしたが、時既に遅し。黒い船は脅しの一発を放った。 鈍い音がして、何発もの砲弾が雲の彼方へと消えてゆく。 「停船命令です、船長。」 船長は苦渋の決断を迫られた。この船だって武装はしているが、 あの黒い船に比べたら役立たずの飾りのようなものだ。 助けを求めるように、隣にたったワルドを見つめる。 「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」 ワルドは落ち着き払って言った。 船長は「これで破産だ」と呟き、停船命令を下した。 「何だろう?」 ヴィオラートは急に現れた船に興味を抱き、身を乗り出して観察しようとする。 その時丁度、黒い船の脅しの一発が一斉に火を噴いた! 「うわっ!!」 思わず飛びのき、甲板にへたり込む。しばらく呆けた後もう一度、今度はおそるおそる顔を出すと… 黒い船の舷側に弓や小型火器で武装した男達が並び、二つの船の間にロープが張られ、 それを伝って刀剣を持った屈強な男達がやって来るのが見えた。 「ふー、びっくりした。あれは…盗賊さん達かな。この世界の盗賊さんってあんな船まで持ってるんだ」 盗賊の十や二十なら物の数ではないし、大砲や小火器の二~三斉射なら素で耐える自信はあるが 少しばかり人数が多すぎるし、何よりルイズ達がいる。 「とりあえずは…我慢かな。」 状況はヴィオラート達に不利だ。今の所は大人しく従うフリをしておいたほうがいい。 ヴィオラートはそう判断し、機会を待つことにした。 ロープを伝った男達が、ついに甲板に降り立つ。 「船長はどこでえ」 「わたしだが」 船長は震えながら、それでも精一杯の矜持を示しつつ手を上げる。 派手な男が大股で船長に近づき、抜いた曲刀で顔をぴたぴたと叩いた。 「船の名前と、積荷は?」 「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」 男はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分が被った。 「船ごと全部買った。代金はてめえらの命だ」 船長が屈辱で震える。それから男は、甲板に佇むルイズとヴィオラートに気付いた。 「おや、貴族の客まで乗せてるのか」 男はルイズとヴィオラートをじっくりと見比べた後、ルイズに近づき、顎を手で持ち上げた。 「こりゃあ別嬪だ。お前、俺の船で皿洗いをやらねえか?」 男達は下卑た笑い声を上げた。ルイズはその手をぴしゃりと撥ね付けた。 燃えるような怒りを込めて、男を睨みつける。 「下がりなさい、下郎」 「驚いた!下郎と来たもんだ!」 男は大声で笑った。ついで他の男達もおかしくてたまらないといった具合の笑い声を上げる。 「てめえら。こいつらも運びな。身代金がたんまり貰えるだろうぜ」 ルイズ達は杖を奪われ、船倉に閉じ込められることになった。 船倉には、酒樽やら穀物の袋やら火薬やら砲弾やらが雑然と積まれていた。 ワルドは興味深そうに、その積荷を見て回っている。 「さて…」 ヴィオラートは二つの赤いバッグを揺らして立ち上がった。 船倉に入る前、一応中身を見せろとは言われたものの、 ヴィオラートが計八本のやる気マンマンなにんじんを取り出し、バッグを逆にして振って見せ、 カロッテ村のにんじんの素晴らしさをこれでもかこれでもかと力説し始めると、 男達は大した興味も示さずにため息を一つついてワルドを調べに回ったのである。 誤魔化そうとした意図はあっても、ヴィオラートは半分くらい本気で語ったのだが… まあそれはいつものこと。いつか語り合える同士が現れるさと、ヴィオラートは自分を慰めたのだ。 「そろそろ脱出しておいた方がいいよね」 ヴィオラートたちを狙っている兵器はなく、敵もせいぜい見張りが数人いるだけ。 アルビオンは目前で、ワルドは飛べるし、ホウキとフライングボードはバッグに入れてある。 ワルドに秘密バッグを知られてしまうのはちょっとあれだが、背に腹は変えられない。 フラムあたりで強引に壁をぶち破って、適当に爆弾をばら撒いた後混乱に乗じて逃げる。 と言った作戦が無難なところだろうか。 ヴィオラートがプランを説明しようとルイズの方へ向き直った時、扉が開いた。 「飯だ」 太った男が、スープの入った皿を持ってきたようだ。 扉の近くにいたルイズが受け取ろうとすると、男はその皿をひょいっと持ち上げる。 「質問に答えてからだ」 「言ってごらんなさい」 「お前達、アルビオンに何の用があるんだ?」 「旅行よ」 ルイズは腰に手を当て、毅然とした態度で言った。 「トリステイン貴族が、今のアルビオンに旅行?何を見物するつもりだ?」 「そんなこと、あなたに言う必要ないでしょ?」 「恐くて泣いていたくせに、ずいぶんと強がるじゃねえか」 空賊は笑うと、皿と水の入ったコップを差し出した。 空賊が去った後、三人は一つの皿から同じスープを飲んだ。飲んでしまうとする事がなくなる。 とりあえずヴィオラートはもう一度、プランを説明しようと二人に向き直るが… もう一度、すぐに扉が開いた。今度は痩せぎすの空賊だ。 空賊は三人を見回すと、楽しそうに言った。 「おめえらは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」 ルイズ達は答えない。 「黙られるとわからねえんだが…だったら失礼した。俺達もまあ貴族派のお仲間だからな」 「じゃあ…この船は反乱軍の軍艦なわけ?」 「いやいや、協力関係っていう所だ。で、どうなんだ?貴族派なら、きちんと港まで送ってやろう」 ヴィオラートとワルドはほっとした。これで、港までは安全に運んでもらえる事になるだろう。 しかし、ルイズは首を縦に振らずに、真っ向からその空賊を見つめた。 「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか」 空賊は、いや、ヴィオラートとワルドもあっけにとられて言葉を失った。 そして空賊は笑う。 「正直なのは結構だが、お前達ただじゃ済まないぞ?」 「あんたたちに嘘ついて頭下げるぐらいなら、死んだ方がましよ」 「…頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」 空賊は苦笑しながら去っていった。 「ねえ、ルイズちゃん」 「なによヴィオラート。言っとくけど私諦めないわよ。最後の最後までね」 真っ直ぐにそう言うルイズが眩しかった。なので、頭を撫でてみる。 「な、なによ!子ども扱いしないで!」 「ルイズちゃん。いざってときは、空を飛んで逃げるからね?」 それだけ言うと手を離し、頷く。 ヴィオラートの真剣な目に、ルイズも思わず頷く。 そして、再び扉が開いた。先ほどの痩せぎすの空賊が、真剣な面持ちで告げる。 「頭がお呼びだ」 扉を開け、通されたのはこの船の船長室。最初に出会った派手な男が、どうやら船長であるらしい。 頭の周りでは、空賊たちがニヤニヤ笑ってルイズたちを見つめている。 「おい、お前達、頭の前だ。挨拶しろ」 しかし、ルイズはきっと頭を睨むばかり。頭はにやっと笑った。 「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、名乗りな」 「大使としての扱いを要求するわ」 ルイズは、頭のセリフを無視して言った。 「王党派なのか?」 「ええ、そうよ」 「何しに行くんだ?」 「あんたらに言う事じゃないわ」 頭は、歌うように楽しげな声でルイズに言った。 「貴族派につく気はないかね?あいつらはメイジを欲しがってるぜ?」 「死んでも、嫌よ」 ルイズは胸を張った。 それを見た頭は耐え切れないといった様子で、低い笑い声を漏らす。 「くくっ、失敬。貴族に名乗らせるなら、まずこちらから名乗るのが礼儀だったな」 周りに控えた空賊たちが、一斉に直立不動の姿勢をとった。 「私はアルビオン王立空軍大将…いや、それよりはこちらの肩書きの方が通りはいいかな?」 頭はカツラを外し、ヒゲをはがす。現れたのは凛々しい金髪の若者。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。ヴィオラートもぼけっとして、いきなり名乗った皇太子を眺める。 ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。 「アルビオン王国へようこそ、大使どの。さて、御用の向きを伺おうか」 前ページ次ページゼロのアトリエ
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前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 42.シェオゴラス 小雨が降る暗い森の中、ルイズはカトレアから離れた所に現れた。 カトレアは日記帳を持ってひたすら森の奥へと歩いている。 時折激しく咳き込みながら、ランランと目を輝かせているのがルイズには何故か分かった。 辺りは強い風が吹き、ルイズは自分の視界すら確保出来ないというのに、 カトレアは明かりも点けずにずんずん前へ進んでいく。その顔は歓喜に満ちていて、 精神力が具現化したオーラが彼女の周りを漂っている。 青にも茶色にも見えるそれが舞う。荒れ狂う嵐のようなそれらをまとう姉はとても怖かった。 「獣って、どこにいるのかしら。ああ、もうここで倒れるのも悪くないわね。 だめ、だめよカトレア。こんな所じゃすぐに見つかってしまうわ…」 こわい。このちいねえさまも、今のちいねえさまも。 いつものちいねえさまがどこにもいない。こわい。 ルイズはおっかなびっくり着いて行くことにした。 ここで戻っても意味がないと頭で分かっているからだ。 カトレアが咳と共に吐いた血を見てルイズは後を追う。 カトレアの姿は、彼女の発するぼんやりした光で輪郭だけが見える。 しかし体の状態は良さそうには見えない。 しきりに体を掻くカトレアから、たくさんの皮膚がこぼれているからだ。 「やっと、やっと終わるわ。嗚呼、どうかあの世では作り笑いせず、 真っ当に暮らせる程度の幸せを得られますように! 姉さま用のお手紙も残したし、ルイズがこれを知るのはしばらく先でしょうし、 父さまはわたしに無関心で、母さまは何を考えてわたしを生かしているのか……」 膝をついて口から何かをはき出す音が辺りに響いた。 大量の血が流れる。カトレアは笑った。 「凄いわ。記録更新かしら…でも変ね。ひどく頭が冴えて、いつも以上に元気なのよ。 だからわたしの後に誰かいるのも分かっているの」 ビクリとルイズが震え上がる。隠れていた木が、錬金の魔法で倒された。 カトレアは笑っていた。とても怖く笑っていた。 「こんな時まで幻覚だなんて…あれ、もしかしてルイズ?」 夜中でよく見えないせいか、髪の色だけでカトレアは判断した。 夜で、ほとんど光の無い森の中でも、その髪色はそう間違えたりはしない。 「ち、ちいねえさま」 「しばらくぶりね。ごめんね。今は遊んであげられないの」 思い出の中のカトレアは、いつもルイズと同じ髪色だった。 しかしそれは、カトレアが痛みを苦にしなくなってからの色だったのだ。 八年前の事を思い出せなかったルイズは、それが普通の髪色だと思って過ごしていた。 カトレアはニコリと微笑んだ。 「危ないわよ。早く帰りなさい」 「ね、ねえさまも、いっしょに…」 微笑んだまま、カトレアはルイズの目を真っ直ぐ睨んだ。 「ねぇ、あんたルイズじゃないわよね?けど幻覚でもなさそうだわ。 あんた誰?わたしに何がしたくてここにいるの?」 微笑みが消える。ルイズはただただ怖がった。 「違うの、わたしはルイズよ!ちいねえさま!!」 「黙れ!消えなさい。わたしの杖があなたに向かない内に… いいえ、いいわ。ついて来たいなら来なさいな。風邪、引かないように気を付けてね」 そのまま背を向けて、また森の奥へと進む。ルイズはその後に続いた。 振り向きもせずにカトレアがルイズに言った。 「あんたね。わたしの妹に似ているのよ。 でもね、あの子そんなにしっかりした目をしてないわ。 誰かが周りにいないと困るのにかんしゃく持ちでね。 わたしにそっくりよ。だからこの世で一番嫌いなの」 「かんしゃく…ちいねえさまも持っていたの?」 自分が落ちこぼれだという自覚はずっとあった。 もちろんそれを表に出したりはしないが、 優秀な姉達に比べて何も出来ないと錯覚し、 時には使用人たちの言動を目で制した事もあった。 そしてその後に激しく後悔する。そんな自分がルイズは嫌いだった。 「ええ、とってもね。母さまに酷いことたくさん言ったし、 エレオノール姉さまを敢えて困らせたりもしたわね… でもルイズには出来なかったわ。わたしと同じだから。 わたしは体が動かない。あの子は魔法が使えない。 出来損ない同士よ。ヴァリエールの血なのに。 馬鹿なお父さまが、下級貴族の娘と結婚するから! それで三人の娘に負担が掛かっているのに知らんぷり。 あんな奴死ねばいいんだわ!」 ひとしきり叫んでから、カトレアはまた激しく咳き込んで血を吐いた。 座り込んで、苦虫を噛みつぶした様な顔でルイズを見る。 「嫌よね。本当にわたし自分が嫌いよ。 本当はちゃんと気に掛けられているって分かっているのに。 何も思っていないなら、あんな建物造ろうとも思わないのに。 ああ、獣はどこかしら。早く悪夢を終わらせたいわ」 ゆらりと立ち上がって、カトレアは奥に進む。 そんな風に見ていたんだ。私のこと。 同情から優しくされていたのだろうか? そんな事を考えていると、気が付けば一人になっていた。 「あれ?」 置いていかれた事に気が付いたルイズは、 辺りを見渡すが何も見えない。 「ど、どうしよう」 暗い森の中、一人でいるのはとても不安だ。 明かりを杖先に付ける呪文はドットメイジから出来る。 つまりルイズがそれをすれば杖が壊れるかもしれない事を意味した。 「ち、ちいねえさま何処に行ったの?」 しかし返事は無い。代わりに風変わりな笑い声が聞こえた。 「だ、だれ?」 笑い声は前から聞こえる。ルイズはその声の方へと進もうとしたとき―― 「誰かと聞きたいんなら、まずお前から名前を言うべきだと思うんだが?」 それなりに若々しい声が耳元でささやいた。 「ぎゃぁあああああああああ!!!」 驚いて尻餅をつくルイズを余所に、耳元でささやいた老人が笑いながらまくし立てる。 これ以上なく愉快そうに。 「良いねぇ。絹を裂いている!何で裂く?裂いて売るのか?儲かるのか?」 やたらとテンションの高い老人がルイズの背後に立っていた。 毒々しい色の服を着て、大きな杖を手で回して遊ぶ様は年を感じさせない無邪気さがあった。 髪はほとんど白髪で、肌の色はルイズに近い。特に際だった特徴はその目で、左右で色が違う。 ハルケギニアでは猫目として知られるオッドアイで、金と銀の目を持っている。 その瞳も猫の様に細い老人を見たルイズは、何とか言葉を出そうとするが、 何の意味も持たない物しか口からは出なかった。 「ああああ、あ、ああ、あ、あんた」 しかし老人はそれらにすら意味を持たせる。 「あがくってか?悪くないな。しかしこの余にあがくのか? やめとけにん…君は人間かね?何か違うな。ここの連中は普通じゃないが、 だが何か違う…あーパラか。そうだな。お前パラか?パラだな。いよう!パラ」 「パラって何よ!」 ようやく物を言える状態まで心が落ち着き、ルイズは無謀にもツッコミを入れた。 老人は内心良い暇つぶしができそうだと思いながらそれを顔に出さず、首をかしげた。 「パラはアレだろ。こんな桃髪してやがるくせに違うと?変わった人間だ」 「桃じゃないわ!『ピンクがかったブロンド』よ」 変わった老人は目を大きく開けて驚いた。 「なぜイチゴ?それだとショッキングじゃあないし、冗談にしちゃつまらん。才能がないな。全く無い」 「何がショッキングよ!そもそも何がイチゴなのよ」 「落ち着け!衝撃的な顔が台無しだぞ?ミス・ショッキング」 ルイズは顔を真っ赤にして言い返す。完全にからかっている老人のペースだった。 「勝手に名前を作らないで!私はルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールって名前があるんだから!」 「分かった。よろしくなショッキング・ルドラ」 「ルドラって何なのよ!!!!」 「ルドラはルドラだろうが。全くこれだから最近の若い人間は。100歳なんざ若輩もいいとこだ!」 「十分老人よ!!!」 ツッコミの連打にルイズは段々疲れてきた。 笑顔の老人はとても楽しそうに、次は何を言おうかと考えている。 「あ、あんた、もしかして…シェオゴラス?」 乱心の神、以前悪夢の女王から聞いた名だったが、こいつ以上に相応しい存在はいない。とルイズは感じた。 ぜいぜいと息を吐いて言うと、老人の目が更にランランと輝き、気持ち良さそうに叫んだ。 「そうだ!余の名はシェィオゴォォォラァス!!!きょぉおおおうきのおうじさまだぁあああああ! 他にも色々あるが面倒だから省く。で、お前はなんなんだルドラ。 お前はここにいてここにいない。夢見気分で余に会ってやがる。 誰の回し者かね。アズラだな?あいつ以外いねぇ! そんなに嫌か?負けるのが。負けたのは余だ! ズルして負けたのを余の島まであざ笑いに来やがった!! それで、お前さんはなんなのかね。ナイスクリーム食うか?美味いぞ。 余は食べることが好きでな。こいつはなんと……」 ようやく老人は本題に入った。今もまだ色々と喋っているが省略する。 彼はどこからか取り出したクリームを舐めながらルイズを見ている。 これはルイズが何者かを聞いているだけであり、他は全て修飾の類だ。 シェオゴラス。乱心の神であり、その心の内は誰にも分からないとされる神。 現在はシロディールの英雄と称される、マーティンの友人がその役を担っているが、 元々はこの老人の格好のデイドラがシェオゴラスと名乗っていた。 狂気を司る存在として相応しく、「自他共に認める」狂人である。 ルイズはノクターナルに振り回されるマチルダの気分になりながらそれに答えようとしたが、 生来の空気読めない子の力を発揮してしまった。 「その前に一つだけ良い?」 「何だ、早く言え。言わないと段々空に浮かんで行くぞ。シェオゴラスはどれほど空高く浮かぶのか!」 叫ぶように歌っている。ルイズは頭が痛くなってきたが、とりあえず聞いてみた。 「…何で普通に喋ってるの?」 王子達はあれが普通と聞いたから、何か不可思議に思ったのだ。 「ああ?あれはちょっと疲れるんだ。分かるか?魔法力を使うのだよ。だから例えば――」 小雨が嵐になる。風が恐ろしいほどにうなり声を上げ、 そこら辺の木々をなぎ払う。ルイズは風にあおられるが地面にへばり着き、悲鳴を上げる。 しかしその金切り声は嵐のごう音によって全てかき消され、シェオゴラスの耳には全く入らない。 『こういう時なら使う訳だ。で、お前はなんなのかね、ショッキング・ルドラ』 止めてとルイズは叫ぶが、嵐のせいで全く聞こえない。 シェオゴラスは涼しい顔だ。嵐は彼を避けてルイズに当たっているのだ。 『おい、どうしたルドラ。大丈夫か?雨まみれに泥まみれじゃねえか。 ナミラじゃあるまいに。風邪を引くぞ。お前頭の方は大丈夫か?』 からかう相手が死なない程度に不愉快な思いをさせる。 シェオゴラスが好きな時間の潰し方である。 しかし、彼の領域にアポ無しで入ると下手をすれば死んでしまうので、 そこは要注意である。 こう――姫に怒ってから少し切れやすくなっていて、 さらに姉の秘密を知って不安定だった堪忍袋の緒が、ついに切れた。 雨風の中ルイズは立ち上がって吠える。そして力が爆発した。 『あんたに――いわれたかぁないわよぉおおおおおおおおお!!!』 爆風が嵐を吹き飛ばす。雨風どころか森の一部まで消え去る大きな爆発だった。 シェオゴラスは口笛をヒュウと鳴らす。 「なんだ、お前も出来るじゃねぇか。まあ当然だなパラだからな」 ぱんぱんとリズム良く手を叩くシェオゴラス。当然だが、尚更ルイズの怒りは燃え上がる。 「なんなのよあんたはぁあああああああ!!!」 ルイズは切れた。サイトなら死を覚悟する程度には切れた。 怒りで黒いオーラが彼女から吹き出しているが、 その程度で動じるほどシェオゴラスは柔でもない。 皮肉屋はやれやれと言いたげに両手をあげた。 「言ったであろう?余の名はシェオゴラス。狂気の王子様だ」 「うなされてるわね。ちょっとまずい事したかしら…。 ちゃんとわたしを理解するには、一番分かりやすいと思ったのだけれど」 カトレアはルイズに布団をかぶせて、動物たちと一緒に様子を見ている。 ルイズは難しい顔でムニャムニャと口を動かしていて、 その腕や足は何かを訴えかけるかのように、バタバタ動かしている。 カトレアの隣にいるラルカスが右手で頭を掻いた。『虚無』の魔法が珍しい事もあって、 どの様な状態かを確認しているのだ。 「シェオゴラス卿は人を選ぶからな…大丈夫だとは思うが」 「そうね。他の方々だと危ないだろうけど、たぶん大丈夫でしょうね」 ルイズの体を撫でながら子守歌を歌うカトレアは、 とても美しい若奥様に見えた。その様にラルカスは見とれてしまう。 視線に気付いたカトレアは、コロコロと笑ってラルカスを見た。 「どうかしたの?ラルカス」 「いや、何でもない」 「ふぅん」 三年前からそれなりな間柄だが、ラルカスが気後れしているのだ。 特に、カトレアの病気が治ってしまった今は。 ラルカスは今の生活が気に入っている。美しい女の主人に潤沢な実験道具の数々。 召喚のゲートが開いた時は驚いたが、その主人がヴァリエールの次女で、 しかも水のメイジを欲しているとなったら、自分以上の使い魔はいないだろう。 体を変えた事で得たスクウェアクラスの「水」の力、そして体力精神力共に旺盛。 人の為になるなら薄暗い洞窟で一人寂しく研究をするより、 そっちの方が大いにマシだ。そんな訳で彼女の使い魔になった。 最初はミノタウロスらしく接して、ある程度うち解けてから事実を上の姉妹二人に打ち明けたところ、 エレオノールに解剖されそうになったり、危険な島の住人達とかみ合わない話をさせられたりしたが、 今となっては良い思い出である。 カトレアとエレオノール以外は簡単な魔法がいくらか使える変わったミノタウロスとして認識している。 「先に言っておきますけれど、わたしは『普通』に戻れませんからね。 それ以前に、これがわたしの普通なのだけれど。 みんながみんな、模範的な貴族にはなれないもの。 わたしは元々そういうのからは外れていたのだから」 シェオゴラスの影響を受けたのはカトレアだけではない。 ラルカスに脳移植の方法を教えたのもシェオゴラスだった。 何があっても死にたくない。生きたいと願った結果、 ある日夢の中でミノタウロスの体を用いる方法を教わった。 人としての尊厳を捨てて、ミノタウロスとなって生きる。 狂気をはらんだ行為であることは間違いないが、 それでも生きることをラルカスは望んだ。 「ああ、わたしもだ」 コロコロと笑うカトレアは、そんな彼を微笑ましく見た。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
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前ページ次ページゼロの天使 魔法学園に戻ったミトスはルイズの部屋に一番近い所にある木陰に身を寄せ、これからの事を考えた。 (元の世界に戻る・・・気にはならないな) 自分が消えた以上ロイド達はすぐに大樹を蘇らせるだろう、そうなれば大樹の種子と融したマーテルは消え去る。 姉さんの居ない世界で何かをする気は・・正直おきなかった。 「気になるのはどうして僕がこの世界に呼び出されたのか・・」 そう言ってミトスは自分をこの世界に呼び出した少女の部屋に目線を送る。 ルイズの話では使い魔はこの世界の生物が呼び出されるのだと言う。 そうなると別世界から呼び出された自分は全くのイレギュラーな存在と言うことに成る。 自分の左手をかざすとルイズに刻まれたルーン文字が薄っすらと浮かんでいる。 ルイズから施された使い魔のルーンは本来動物用なのだろう、ルイズに対して親しみのような感情こそ有るが、拘束力としては弱いし人間の寿命など精精70年程度だ。 (僕がこの世界に呼ばれたのはただの偶然か、それとも何か意味が有る事なのか、どちらにせよ今はルイズの使い魔を続けるのが利口かな・・) ミトスは軽く背伸びをすると、そういえば自分一人で野宿するのは初めてだった事に今更ながら気が付き目を閉じた。 朝になりルイズの部屋に行く、昨日言われた通りドアをノックするがいつまで立っても返事が無いので、中に入るとルイズはまだベッドの中で気持ちよさそうに寝ていた。 「ルイズ、朝だよ」 「うぅ~~~ん後5分~~、スースー」 後5分で起きる生命体は絶対に居ないので今度は布団を引っぺがす。 「ふにゃ…!なに?なにごと!」 突然の出来事に戸惑うルイズは寝ぼけた頭で周りを見渡す 「ふにゃ~アンタだれ~~」 「朝だよ、ルイズ」 次第にクリアになる頭でルイズは昨日の事を思い出す。 ( そ、そうだ昨日エルフを使い魔として呼び出したんだ ) 昨日のやり取りを思い出したルイズは取りあえず使い魔のエルフに命令してみる 「服と下着」 「下着の場所は?」 「一番下の引き出し」 自分の命令に素直に従うミトスを見て気分を良くしたルイズは服を着せるよう命令してみる。 これにはミトスも少し戸惑ったが慣れない手付きでなんとかルイズを着替えさせる。 (よーし♪よし!ちゃんと私の言うこと聞てる、次は~) グ~~~~~!! ルイズのお腹から大きな音がする 「・・・・・・・・・」 「・・・・・な、何よ!着替えが終わったら朝食に行くわよ!」 顔を真っ赤にしたルイズは自分が昨日から何も食べていない事に気が付き部屋の扉を開けた。 「あら。おはよう、ルイズ。」 朝から嫌な奴に会った。ルイズが扉を開けたちょうどその時、同じように扉を開けて燃えるような赤い髪の女の子が出てきた。 「おはよう、キュルケ」 事務的な挨拶を返す 「ふ~ん、貴方が昨日召還されたって言うエルフね~」 キュルケは値踏みをする様にミトスを見る。 「そ、そうよ!私の使い魔はエルフなんだから!貴方のサラマンダーなんか足元にも及ばないわ!」 ルイズはキュルケの足元で控えているサラマンダーを指差す。 「ふーん、でも貴方本当にエルフなの~?」 意に介した様子も無く逆にキュルケは疑いの眼差しをミトスに向ける。 実はハーフエルフなミトスだったが自分の外見はエルフと大差ないので髪をかきあげ、エルフの証である尖った耳を見せる。 「ふ~ん、確かにエルフみたいだけど召還したのが「ゼロのルイズ」じゃねー」 キュルケは小馬鹿にしたような口調でルイズの顔を覗きこむ。 「な、なにが言いたいのよ!」 「言葉どおりよ、ゼロの貴方の所にエルフが来るなんて可笑しいもの」 (カチーン!) ルイズの中で何かが切れた。 「な、なななな何よ!貴方の使い魔だって大方、雌を漁りすぎて故郷に居られなくなったから仕方なく此処に来たんじゃないの?誰かさんと同じで」 このルイズの暴言にキュルケもカチーンときた。 「言ったわね!ゼロのルイズ!」 「何よ!この色魔!」 般若面も核やと言う形相で二人はにらみ合う 「フレイム!やっておしまい!」 「ミトス!こいつら、ぶっ飛ばし・・・アレ?」 気が付くとさっきまで隣にいた使い魔がいない。何処に行ったのかと首を傾けると自分の使い魔は在ろう事かキュルケのサラマンダーと遊んでいた。 「あはは、人懐こいなーオマエ」 「キゥルルルルルルル♪」 頭を撫でられたフレイムは嬉しそうな声をあげる。 「ミトス!あんたツェルプストーの使い魔なんかと何じゃれあってるのよ!」 「ふ~ん、フレイムがあたし以外に懐くなんて・・・」 主としては少し複雑だったが楽しそうな使い魔達を見て興がそがれたのかキュルケとルイズはその場を収める事にした。 「じゃあね~ルイズまた後で」 そう言うとキュルケはフレイムを伴って立ち去る。 去り際にミトスとフレイムが互いの顔を合わせ、軽くウィンクしていた。 (使い魔はたいへんだ・・・) 前ページ次ページゼロの天使
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前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!! 次回予告 「拙者キャリゲーター。船旅に美男子、いいでござるなー。ぬお! この恐ろしげな御仁は? ルイズ、しゃっきりするゲーター。 GP-14 推参プリンス ――GO ON!!」 「とりあえず今日のところはこんなものね」 「あとはアルビオンに着いてからでおじゃるな」 ケガレシア達との打ち合わせ(実質的にはヒラメキメデス・マチルダとの顔合わせ)を終えたルイズ達が「女神の杵」亭に戻ったところ……、 「何なのよあんた達!?」 「殺っちまえ!」 「………」 「往生際が悪いぜ、嬢ちゃんよお?」 「こいつっ!」 「やるじゃねえか!」 「チンピラのわりに連携が取れているな……」 「てめえら人間じゃねえ、たたっ斬ってやる!」 ……キュルケ・タバサ・ギーシュ・ワルドvs傭兵の修羅場と化していた。 ――GP-14 推参プリンス―― 「何でこんな事になったのか聞くのは後にした方がいいわね……」 「そうしてくれるとありがたいな……どうだ!」 ルイズの言葉に答えつつも傭兵を切り伏せる手を休めないワルド。 「まとめて蹴散らしてやるでおじゃる! チュウシャバンキ!」 「ブーンビー!」 ケガレシアの呼び声に答え、両腕が鋭い針の付いた注射針になっているハチと人間を合成したような蛮機獣が壁を突き破って出現する。 「注射爆弾!」 腕から巨大な注射器を飛ばし、それを爆発させるチュウシャバンキ。 「笑い注射!」 口から連射した注射器に仕込まれた毒液で、傭兵達を笑い転げさせて呼吸困難で苦しめるチュウシャバンキ。 「注射ニードルカーニバル!」 大の字になって空中回転しながら急降下、腕の注射針で急所を突き刺すチュウシャバンキ。 『うわーだめだー』 瞬く間に大半が戦闘不能となって傭兵達は敗走していった。 「見たでおじゃるか! チュウシャバンキの力を!」 「ブーンビー!」 翌朝、アルビオン行き客船・マリー=セレスト号甲板にワルド達の姿があった。 「な、何でえ、おめえら!?」 「船長はいるか」 「まだ寝てるぜ。用があるならもうちょっと待つんだな」 ワルドは解答代わりに杖を抜き、 「貴族に2度同じ事を言わせるな。船長を呼ぶんだ」 「き、貴族!」 慌てて船内に駆け込んだ船員は、しばらくして初老の男を連れて戻ってきた。どうやら彼が船長のようだ。 「何のご用ですかな?」 やってきたワルドに、船長は胡散臭げな視線を送った。 「女王陛下のグリフォン隊、隊長のワルド子爵だ」 「これはこれは。して当船へどういったご用向きで……?」 相手の身分を知った船長は突然相好を崩した。 「アルビオンに今すぐ出航してもらおう」 「そんな無茶な!」 「無茶でもよい」 「あなた方がアルビオンに行く理由など知った事じゃありませんが、明後日の朝にならないと出航できませんよ!」 「なぜだ?」 「アルビオンとラ・ロシェールが再接近するのは明後日の昼。早くても明後日の夜明け後に出航しなけりゃ、風石が足りませんや」 ワルド・船長のやり取りを聞いていたケガレシアが、ルイズにそっと尋ねる。 「風石とは何でおじゃるか?」 「風の魔法力を蓄えた石よ。それで空船は宙に浮かぶの」 2人がワルド達に向き直ると、船長が思案顔のワルドにさらにたたみかけていた。 「子爵様、当船が積んだ風石はアルビオンへの最短距離分しかありません。それ以上積んだら足が出ちまいますゆえ。したがって今出航したら途中で海の藻屑でさあ」 「風石が足りない分は僕が力を貸す。僕は風のスクウェアだ」 船長・船員は顔を見合わせていたが、やがて船長はワルドに向かって頷いた。 「ならば結構で。そのかわり料金は弾んでもらいますが……」 「積荷は」 「硫黄で。アルビオンでは今や黄金並みの値段がつきますんで」 「全てと同額出そう」 商談は成立、船長が矢継ぎ早に命令を下し始める。 「出港だ! もやいを放て! 帆を打て!」 風を受けた帆と羽がが張り詰めて船が動き出す。 「アルビオンにはいつ着く?」 「明日の昼過ぎには、スカボローの港に到着しまさあ」 「明日の昼……」 ルイズが緊張した表情になる。 「船長の話では、ニューカッスル付近の王党派軍は包囲されて苦戦中のようだ」 「ウェールズ皇太子は?」 「わからん。生きてはいるようだが……」 「その様子では、港は全部反乱軍の手に落ちたと思っていいでおじゃるな」 「……たぶんそう……」 「どうやって王党派と連絡を取ったものかしらね?」 「敵中突破しかあるまいな。スカボロー港からニューカッスルまで馬なら1日だ」 「貴族派反乱軍の間をすり抜けるつもりですか?」 ギーシュの質問にワルドは肩をすくめ、 「そうだ。それしかないだろう。まあ反乱軍も公然とトリステインの貴族に手出しはできんだろう」 「包囲網を突破してニューカッスルの陣に向かうのでおじゃるな」 「夜の闇には注意しないとね」 ルイズは緊張の表情で続けた。 「あ、あの……」 その時、キュルケ達に1人の少女がおずおず話しかけてきた。ベレー帽を被りマントを羽織った幼い容貌の少女だ。 「どうしたの?」 「あの、皆さんもアルビオンに行くですか?」 「……そうだけど……あなたは……」 「あ、私はクドラーフカ・ド・チセルというです。大事なお仕事でアルビオンに行くですよ」 「へえ、そうなのか。チセル男爵には前に会った事があるけれど、君のような可愛い娘がいるなんて知らなかったな」 ルイズ達の緊張とは裏腹に、キュルケ達は旅の道連れとなった少女・クドラーフカと楽しい一夜を過ごしたのだった。 「右舷情報の雲中より船が接近してきます!」 翌朝、下半分を純白の雲に隠されたアルビオン島が視界に入ったところで、甲板に船員の切羽詰った叫び声が響いた。 後方甲板でワルドと共に操船を指揮していた船長は、見張りの声に右上方を見上げた。 「アルビオン貴族派か? お前達のために荷を運んでいる船だと教えてやれ」 見張り員は船長の指示通り手旗信号を送ったがやがて、 「あの船は旗を掲げておりません!」 「してみると、く、空賊か?」 「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて活動が活発になっていると聞き及びますから……」 「今すぐ逃走だ! 取り舵いっぱい! 全速前進!!」 緊急事態を告げる鐘が打ち鳴らされ、船内にいた船員達も慌てて飛び出す。 船長はマリー=セレスト号を空賊船から遠ざけようと命令を下すが時既に遅し。併走する空賊船が進路を妨害するように威嚇砲撃を開始する。 その直後、マストに4色の旗が掲げられた。 「『停船しなければ攻撃する』か……」 「私はこの船を浮かべるだけで精一杯だし、彼女達も一昨日少々派手に立ち回ったせいでこれほどの人数とやりあえるほど本調子じゃない。ここはあの船に従うしかない」 「これで破産だな……」 観念したようで船長は停船命令を出した。 空賊船はマリー=セレスト号に横付けすると鉤付ロープを渡して次々こちらに乗り込んできた。 日焼けして粗野な雰囲気を隠そうともしない男達が大声を張り上げる。 「おめえら抵抗すんじゃねえぜ! 逆らってみろ、すぐさま首を切り飛ばしてやらあ!」 弓やフリントロック銃で武装した空賊達が手馴れた様子で抵抗する船員を拘束していく。 キュルケ・ギーシュが思わず魔法を使おうとした時、ケガレシア・ワルドに制止された。 「やめたまえ。いくら平民といえど、あれだけの数を相手に消耗した状態で戦うのは無謀だ」 「それに奴らの船の大砲がこの船を狙っているでおじゃるよ。……今はとにかくチャンスを待つべきでおじゃる」 抵抗する者がいなくなったところで、空賊の頭目らしい両腰に3本ずつ鞘を帯びた眼帯の男が乗り込んできた。眼帯の男は乗り込むや否や船長を出すように命令する。 「ほう、てめえがCaptainか。船のNameと積荷を答えろ。嘘を吐いたらいい事ねえぜ」 「……トリステインの『マリー=セレスト号』……、積荷は硫黄……」 直刀で頬を撫でられ、震える足を押さえながら何とか立っている船長は正直に白状した。 積荷が硫黄と聞いて空族達は割れんばかりの歓声を上げる。 「All俺達が買ってやる。料金はてめえらのLifeだがな」 船長が崩れ落ちるのを確認したところで、空賊の頭目はルイズ達の中にいるケガレシアに気付いた。値踏みするかのように下卑た笑みを顔に貼り付けると悠然とした足取りで接近する。 「ほほう、こいつは随分Beautifulだな」 そう言って触ろうとした時、 「清らか? 美しい? それはガイアークにとって死に勝る屈辱でおじゃる!」 ケガレシアが鞭の一撃で頭目を叩きのめした。頭目は船縁から落下しかけるもどうにか体勢を立て直す。 「筆頭!」 「俺達なめられてますぜ!」 筆頭が一撃を浴びて空賊達は一斉に殺気立った。 そんなケガレシアに、ルイズ・デルフリンガーもにやりと笑みを見せて戦闘体勢を取る。 「ちょっ……、何やってんのよ、ルイズ!」 「……正気なの……」 「考えてみたら、空賊なんかに好き勝手されて黙ってるってのは趣味じゃないのよね。王党派について反乱軍相手にする前のひと暴れよ、ケガレシア」 「確かにわらわ達が反乱軍を叩き潰してしまえばいい事でおじゃるな。ついでに空賊退治といくでおじゃる」 「いくぜえっ!」 ルイズ達の異様なまでの余裕に気圧される空賊達だったが、1人冷静な筆頭が左眼だけを動かして3人を睨む。 「King側につく?」 「ええ、そうよ」 「もう1度聞くが本当にKing側か? トリステインのAristocratが今時のアルビオンに来て、King側の援軍だってのか? 何しに行くんだ?」 「あんたらに言う事じゃないわ」 「Aristocrat側につく気は無えか? あいつらはMageを欲しがってる。たんまりMoneyも弾んでくれるぜ」 「死んでも嫌よ」 「もう1度言うぜ。Aristocrat側につく気は無えか?」 「つかぬと言ったはずでおじゃる」 毅然とした表情のルイズが口を開くより早くケガレシアが続けた。 「てめえは何もんだ?」 「わらわはルイズが使い魔の1人、ケガレシアでおじゃる」 「使い魔?」 「その通りでおじゃる」 ケガレシアの答えに筆頭は笑い声を上げる。 「トリステインのAristocratは気ばかり強くってどうしようもねえな。まあ、どっかの国の恥知らずどもよりはずっとBetterだがな」 すると周囲の空賊達が一斉に直立した。 「失礼した。貴族に名乗らせるならこちらから名乗らなくてはね」 青い兜を脱いで眼帯を外す。その下から出現したのは凛々しい金髪の青年の顔だった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……。本国艦隊と言っても既にこの『イーグル号』しか存在しない無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらの方が通りがいいだろう」 若者は居住まいを正して威風堂々とした雰囲気で名乗る。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ。アルビオン王国へようこそ、大使殿。さて、ご用の向きを伺おうか」 「つまりわらわ達は試されていたという事でおじゃるな、王子」 「いや、大使殿にはまことに失礼を致した。しかしながら、君達が王党派という事がなかなか信じられなくてね。外国に我々の味方の貴族がいるなどとは夢にも思わなかった。君達を試すような真似をしてすまない」 「アンリエッタ姫殿下より、密書を預かってまいりました」 ルイズは優雅に一礼して言った。 「ふむ、姫殿下とな。君は?」 「姫殿下より大使の大任を受けました、ヴァリエール家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールでございます」 そしてルイズはケガレシア達をウェールズに紹介する。 「そしてこちらが私が最も頼りにしている使い魔の1人、蛮機族ガイアークの害水大臣・ケガレシアにございます、殿下」 「なるほど! 君のように立派な貴族が私の親衛隊にあと10人ばかりいたらこのような惨めな今日を迎える事も無かったろうに! して、その密書とやらは?」 胸ポケットからアンリエッタからの手紙を取り出そうとしたルイズだったが、ふと動きを止める。 「何だね?」 「失礼ですが、本当に皇太子様ですか?」 「まあ、さっきまでの顔を見れば無理も無い。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。何なら証拠をお見せしよう」 ウェールズは笑いつつ、ルイズに自分の薬指に光る指輪を外して渡した。 指輪のルビーがルイズの指に嵌っていた水のルビーと共鳴、虹色に輝いた。 「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君がはめているのはアンリエッタがはめていた水のルビーだ。そうだね? 水と風は虹を作る。王家の間にかかる虹さ」 「大変失礼をば致しました」 ルイズは一礼をして手紙をウェールズに渡した。 ウェールズは愛おしそうに手紙を見つめて花押に接吻したが、読み始めると表情に曇りが出た。 そして顔を上げ真剣な眼差しで、 「姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」 ルイズが無言で一礼すると、ウェールズは再び視線を手紙に戻した。 そして読み終わると微笑んで、 「了解した。姫はあの手紙を返してほしいとこの私に告げている。何より大切な姫から貰った手紙だが姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう。しかしながら今手元には無い。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね。多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」 蛮機獣チュウシャバンキ 【分類】害水目 【作製者】害水大臣ケガレシア 【作製モデル】注射器 【口癖】「ブーンビー!」 【身長】211cm 【体重】216kg 「注射器」をモデルとして製造された蛮機獣です。 注射器とは液体や気体を注入・吸引するために用いられる道具です。 チュウシャバンキは両腕が強力な注射器になっています。 腕の注射器を操作する事で液体爆弾や笑い薬等様々な液体で攻撃できるほか、注射針そのものを武器とする事も可能です。 注)飛行能力を持っていますが本人が忘れがちなので、いざという時に備えて時々思い出させましょう。 前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!!